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素晴らしい日本人に聞くシリーズ

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日本人の力を活かした経営 ②
仕事を通して自分を磨く

前話 事業継承のきっかけ はこちら

田尻惠保様: 会社を引き継いだ当時、自分の精神史を振り返り位置づけると、やっとインフラが出来上がった時でした。

「今後自分がどんな職業に就くのであれ、どのような境遇になろうと満足して、精一杯に楽しく生きていける」という地平にたどりつけたのです。実はこのために大学院に進学していたのです。

誰しもが好きな職業につけるわけではありません。そして、幸運にも希望どうりの仕事につけても、つけなくても、その後、身につけなくてはいけない人間としての資質は同じなのです。

「遅刻はしない」「約束は守る」といった基本的なところから、体の使い方、気持ちのコントロール、注意力、集中力などなど自分自身の人間的な成長を積み重ね、その世界の中でさらに磨かれていく、そういう道を歩むところは、どこにいても同じです。生きていくために日々働くのですが、見方を変えると日々の仕事は自分磨きのレッスン、「行」ともいえるのです。

藤原: 会社は、学校であり、自分磨きの場でもあるということですね。そしてそれが会社の戦力にも繋がって行かれる・・

田尻惠保様: 会社で働く人達が、自分自身の課題を見つける中で一歩一歩成長していく。そうすると、それは会社の戦力になるのです。一人一人の力が強くなれば、そうなります。

例えば公共工事の入札では安いところが勝つわけですが、人件費というものはそんなに変わりませんから、一人一人の仕事量の差で決まります。

一人が一つの仕事をするのに三時間かかる、それが二時間半になり、二時間になり、一時間になり、三十分でできるようになること。

それがその人の成長にも繋がり会社の実力ともなるのです。

職業能力の高い人、人間力のある人はどこでも通用するでしょう。ですから自分自身が職業的にも人間的にも成長していく、日々の仕事を通して修行していくのだ、という気持ちを常に持つことが大切なのだと思います。

藤原: 仕事を通じて自分を磨いていく、ただお金のために働いているのとは働く基準が全く違うのですね。

田尻惠保様: 私は会社では入社のオリエンテーション、個人面談の折などに、こうしたお話をします。そして朝の始業に、毎朝皆で唱和する「始業の言葉」の中にこの考えを入れています。

毎朝、唱和している間に無意識に染みこんでいきます。言霊として音に出すこと、これを長い間やっていると変わってくるのです。ある意味、会社は学校です。社会人になっても人はまだ未熟ですし、現在の私も未熟です。 


(部屋に掲げられている始業の言葉)

人それぞれに立場は違いますがその与えられた立場を生きる個人として、外から見たら何点なのか? という評価の軸で見ています。

例えば、社長として私が60点で、新入社員としてある若者が80点だとしたら、社長の方が負けているということになります。

藤原: お話を伺っていて、本当に頭が下がる思いです。どの会社に勤めるかは一つの縁と思いますが、田尻様の会社に勤められる方は、仕事を通じて人生の学び、磨きができる環境を与えて頂ける、幸せだと思います。

そして人の評価は、地位に価値があると思いがちですが、それぞれが与えられた役目をどれだけ果たしているか、という評価をして頂けることは、厳しい事であると同時に外から見ても羨ましいです。

田尻社長がお書きになられたものの中に「自分の存在は先祖から受け継がれている」というお言葉を拝見し、そこにすごくお力の元を感じました。

親の志を継いでいくということが、いかに日本人にとって大きな力になるのか、ということを実感します。それは常に意識しておられるのでしょうか?

田尻惠保様: 現実的な話をすれば、我々中小企業は継続していかないと意味がないのです。

例えば、退職した先代社長に退職金を全額支払うのでなく、一部は会社の借入として毎月年金のようなかたちで月々返済しました。おそらく多くの中小零細企業はこのように分割で払っていると思います。

ですから、しっかり会社には継続してもらわないと、何ももらえなくなるのです。それは私も同じで、当社では次の社長も決まっております。

藤原: 次の社長が……、それは大きいですね

田尻惠保様: どうして私が彼を当社の後継者に選んだのか、理由を五つ挙げて社員たちにも伝えてあります。

藤原: 次の社長をみんなの前で指名するというのは、会社の継続にとっても一番大切なことですね。

本人もそのつもりになりますし、そのための準備をしますからね。

藤原: 企業が存続していく大事な要素として、次の後継者を決めておくということは外してはならないことですね。

田尻成美様: 「継ぐをもて家とする」という世阿弥の言葉もありますが、やはり継がないことには「家」にはならないと思うのです。それがあって初めて「○○家」と言えると思います。

藤原: 繋がってこそ家である、それはとても大事なことですね。それは繋がってこそ企業といえるにも通じるお言葉と思います。そのために中心となる人がいる。企業の中心が社長なら、家庭の中心は家長ですね。

田尻成美様: 昔の人がしっかりしていたというのは、そういうところがあったからだと思います。


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