素晴らしい日本人に聞くシリーズ

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第三章『経営者こそ見えないものを感じる力が必要』

経営者とは

藤原: 村上先生は、いろいろなセミナーでお話なさると伺いましたが、経営者の方たちにはどのようなお話をされるのでしょうか。経営者の方にとってどんなことが大切とお考えでいらっしゃいますか。

管主様: 経営や営業は、もともと宗教用語でした。経というのは経糸(たていと)なんですね。経糸はよく見えませんが、横糸はよく見えます。

見えない経糸に、精神や理念や哲学があります。見えないものを感じる力が、経営者に一番大切です。

どのように社会の役に立ち、喜ばれるか、そういう見えないものを感じる力が、経営者に問われています。

藤原: 表に出ている「物」しか見られないと、それを支える精神や理念を見落としてしまうことになりますね。

管主様: 昭和に入ってから、日本は歯止めがきかなくなりました。会社でもよほどの経営哲学がないと歯止めがききません。

儲けのみに走ってダメになった例もあります。前に進む力だけでなく、止める力、ブレーキを踏む力も必要です。それが文化であり、哲学であり、宗教だと思います。

藤原: 前に進むことばかりを考えていると、ここは踏みとどまるという場面でも突き進んでしまうことがありますね。

特に欲が絡むと、歯止めがきかなくなってしまうことが多いですね。それであるときに、崖から真っ逆さまに落ちてしまう。バブル期などはその象徴と言えるでしょうか。

管主様: 「鬼は、外!」と言いますが、鬼は自分の中にもいます。

青鬼と赤鬼と黒鬼の三匹がいますが、そのうち青鬼は「貪(とん)・瞋(じん)・痴(ち)」の中の、貪る心を表しています。もっと力を、もっと権威を、という心が青鬼です。国際社会でも貪りあい、煽りあいをしています。

経営者とは2

個人もそうです。一人ひとりがしっかりとした哲学や文化、自分に対する自信を持たないといけません。

変化が激しい時代だからこそ、絶対に変わらないものをしっかりとつかんでおく。それが「色即是空」「空即是空」の教えであり、目に見える物質社会と目に見えない心の世界の調和が大切だと思います。

藤原: 自分の中から、貪る心や、人を押しのけてでも力や権威を得たいという「鬼」を追い出さなければならないのですね。

 

ところで村上先生は、経営者の方に宗教心をどのように説いておられますか。

管主様: 宗教心が無くなってくると、精神が貧しくなり、物と心のバランスが崩れていきます。宗教心とは、それほど難しいことではありません。

まずは感謝する。一つの依り所を持つ、自分のバックボーンを持つこと、それが宗教心の本質です。成熟社会であればあるほど、揺れない絶対の価値観を持つことが大切です。

徳川家康が江戸に入ったころは、武蔵野は荒れ果てて何もなかったはずです。天皇様は日本の権威の象徴である京都におられ、経済や商業の中心は豊臣秀吉がいる大阪でした。

家康は二つとない富士山に、「不二」「空」の世界に繋がるものを感じ、そこから日本の精神性を深め、権威や経済を越えたところにより高い志を持ったのでしょう。

藤原: 宗教心とは、志を持って生きる心の柱ともなり得るのですね。

 

家康が江戸に移されたときには、秀吉が全盛の時代で、父祖伝来の三河の地を離れ、さぞかし大変だったかと思いますが、そうした中で次の国の柱となる心を養われたのだとすると素晴らしいことです。

後に三百年続く江戸幕府の大切な基が、今お話し頂いた志にあるのではないでしょうか。

 

歴史から学ぶことは、たくさんありますね。学校でのテストは「何年に幕府が開かれたか」といった数字や暗記が中心になり、大事なところを見落としてしまいがちですが、そのバックボーンとなる精神文化を捉えると、人生の大きな力になる気がします。

管主様: 今は、日本史を学ぶ機会が少ないですね。特に日本人の誇りや素晴らしい文化を学ぶ機会が少なくなっています。

私たちはつい損得ばかりを考えて生きてしまいがちですが、志はもっと大きく、損得を越えたところに目標設定が必要です。

お金に負けない、役職に負けない、物に負けない、世間に負けない。経営者の方は、そんな「やせ我慢」が必要なのです。

「武士は食わねど高楊枝」ということわざがあるように、どうすることもできない悩みや苦しみの中で、そこから逃げ出さす、悩みや苦しみとともに生きていく勇気が大切なのです。

藤原: 村上先生はよく「やせ我慢」と言われますが、具体的にどんなことを指しておられるのかと思っていました。

経営者の方にとって、人の上に立つ方にとって、「自分自身の欲得や弱さに負けない」ための「やせ我慢」という厳しい教えだったのですね。



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