素晴らしい日本人に聞くシリーズ

第3章 これからの社会を担う世代へ
『社会に蔓延する病に侵されないためにも』

高橋恵様:  鬱病になった子が、私のラジオ番組や雑誌の記事を見て、どうしても会いたいと問い合わせてくれたこともあります。そういう気持ちがある人ならと思い、会うことにしました。

実際にお話してみると、たしかに鬱々としていて。真剣に考えすぎるし、メールも長いし。無視されてしまったとショックを与えてはいけないから、毎日ちゃんと返信していました。

その子が、お掃除に来たのです。お掃除をしてくれて、うちで一緒にご飯を食べ。ただ、そのうちに、ご飯が出るのが当然みたいな顔になっているから、「食べたいのなら買ってらっしゃい」と言ったの。

他の人はお茶碗を洗ったり、トイレの鏡を磨いてくれたり、せっせと働いてくれる。けどその子は、ただじっと座っているだけ。「おせっかい仲間というのは、気が利いて、気配りが大事なのよ。ここで学んでちょうだい」と言ったら、それっきりメールが来なくなりました。

藤原美津子: 当会にも、引きこもりだった男の子がいました。その子が、大変な量の睡眠薬を飲んでいて。そこで主人が、「薬なんか飲むなのは贅沢だ」と言って、取り上げたのです。

そうしたらその子のお父さんが、「夜、寝られないというから、睡眠薬だけでも飲ませてやってください」と言う。でも私は、「お父さん、薬をやめたら禁断症状が出るのは当然です。それでも、与えてやってくれというのですか。預けた以上は信頼してください」と言って、睡眠薬を与えませんでした。

そうしたら、「寝られない」と私に訴えてくるから、「寝られないなら、台所のタイルを一枚磨いたらいいね。それでも寝られなかったら次の日は二枚。その次の日も寝られなかったら、今度は四枚」と言ったら、「僕、根性ないんです」なんて言う。

思わず私も、「何言っているの。あなた五体満足じゃないか。両手がなくても、口に加えて、絵筆で絵を描く人もいれば、足の指で絵を描く人だっているのに。五体満足のあなたが、タイル一枚磨けないなんて、何を言っているのだ」と言ったのです。

そうしたら、その子は思わず、自分の手を見ていましたね。「こうやって動く立派な手があるじゃないか。やりなさい」。そうしたら、二日くらいで寝られるようになりました。

寝られないことがマイナスではなく、「明日はもっと磨ける」とプラスに考えさせる。疲れたら寝る。だから、安心して起きてなさいと言ったのですね。そうしたら、難なく乗り切れました。

藤原美津子: 当会では、次世代を担う若い子たちに、「自分が世の中で何のお役に立つのか、何の貢献をするのか、真剣に考えなさい。」と指導しています。そして、昔は男の子なら十五歳で「元服」でしたから、十五歳のお誕生日を迎えたら、一人前の大人として扱っています。

そうやって自覚を持たせ、「世の中のお役に立つ」ということに目を向けさせれば、引きこもっている場合じゃなくなるはずなのですけどね。

『人と人とがふれあえる場を提供する』



高橋恵様:  いい人に出会うと必ずいいことが起きる。だからうちも「多逢聖因」という言葉があるように、いいところにいい人がいっぱい集まってくる。ここはそういう場所なのです。人生色々あるので、くよくよ過去を引きずってもだめ。

本を出す前、知人がやっていたレストランがあって、赤字になって壊すというから、私にも少しだけやらせてと言って、婚活パーティーをしたのです。そのレストランを貸し切って。

開催前になって、まだ空席があったので、どうしようかと思案していました。そこで植木で仕切って、見学したい人と、世話をしてあげたいという人の席も作ったのです。そうしたら、すぐに満席になりました。全部で100人ほどでしょうか。

藤原美津子: それもある意味では「おせっかい」につながりますね。

高橋恵様:  おせっかいは幸せを呼ぶのです。本当に不思議なくらい引き寄せる。以前、こんなことがありました。私のところにはお手紙がたくさん届くので、ペーパーナイフが欲しいと思い、買いに行ったのです。

でも、全然いいのがなくて。店員の人に聞いても、これというものがなく。夜にお客さんと会うことになっていたので、諦めて帰りました。すると、その来客した方が、お土産にペーパーナイフをくれたのです。

藤原美津子: めぐみさんは、子供や孫を預かっているという想いで、若い人と接し、育てているそうですね。種まきのように。

高橋恵様: ここに来る人はみんな、訪れる時は「ただいま」と言い、帰る時は「いってきます」と言います。それが本人たちにとっても嬉しいことらしいのです。夜どんなに遅く帰る場合でも、行ってらっしゃいと言うと、寂しくないのです。

藤原美津子: そういえば、うちも、帰る時は「行ってらっしゃい」で、朝は「お帰りなさい」と言っていますね。

高橋恵様: 言葉ひとつで感じ方は変わりますよね。去年のお正月は、ここを開放しました。「田舎など、帰るところがないのならここに帰ってらっしゃい」と。三十三人ほど来ましたね。みんな楽しんでくれて。

藤原美津子: それは救われますね。

高橋恵様: 七月の一週間、うちにご飯を食べに来た人は、全部で六十五人いました。十人連れてきたり、七人連れてきたり、そんなふうにしていたら一週間で六十五人も来ていて。

少しでも何かのお役に立てるのなら、そっちに行ってもいいし、ここに連れてきてもらってもいいと考えています。

そんな私でも、実は、障害者手帳を持っています。でも、持っているのを忘れています。なぜなら、持っていると思うと気が弱くなってしまうから。死んだ時は死んだ時です。死んでからは、生きているあいだのことを、後悔出来ませんから。

藤原美津子: 本当にわからないですものね。明日はわからない。

高橋恵様: みんな年をとったら、「これだけお金を貯めておかないと施設に入れない」と思っています。でも私に言わせれば、施設に入ろうと思うから意識がそっちに向いてしまうのです。自分は絶対入らないと思っていたら、お金を貯める必要はありません。

明日死ぬかもしれないのに、あと何年か生きるためにお金を貯めておくなんて、愚かだと思います。行かないつもりでいたら、お金はいりません。

お金を持っていないから、守るものがなかったら、どうってことないのです。いくら素敵な絵を買ったとしても、大地震がきたらおしまいです。絵をぶら下げて逃げるわけにもいきません。

大変なときに誰が買ってくれるというのでしょうか。どんなにいい絵で、何百万の価値があろうとも、買ってくれなければ意味がありません。それよりも、食べ物や飲み物が少しでもあったほうがいいわけです。

藤原美津子: 高橋さんは日本のマザーテレサですね。

高橋恵様: 私は非行少年や少年院を出た子のお世話を、すべて若い時にやりました。マザーテレサは四十代で行っていましたね。インドにもボランティアで行ったことがあります。

また、人がいないということで、ネパールにも行きました。製薬会社から栄養補助食品や線香をもらって届けるなど、いろいろなことをしましたね。

『人生の多くは人間から学べる』


左は、ツバメのお話が掲載されている当会長 藤原美津子著の「すこやかに育って」、
右が高橋恵様の著書 「幸せを呼ぶ『おせっかい』のススメ」


高橋恵様: 私は本を出す前、子や孫の手が離れて暇になりました。会社も娘たちに譲っているし、することもない。寂しいと感じたこともありました。その時、はたしてお金が足りるだろうかとも思ったのです。

ところが、本を出してからは、いろいろな人が来るようになりました。それまでは、優先順位の上位を占めていたお金や物。でも今は、上にあるのは人の笑顔ばかり。こっちの方がよっぽど大事だということに気がついたのです。

藤原美津子: 高橋さんがこの本を出版しなかったら、お会いすることもなかったですものね。

高橋恵様: そうです。何百人の人に知り合えているというのは、この本のおかげですし、この本を取り上げてくださったある有名な出版マーケティングコンサルタントの方に、私はすぐお礼状を書きました。

ところが、お礼状をすぐ書いたのはいいけれど、ポストのところまで行って思い直しました。私の気持ちが「三十分早く着いて欲しい」と思っていたのです。それで引き返して、切手と速達の判を押して出したのです。

速達で届いたので何事かと思ったのでしょう。手紙のレスポンスが早く、手紙の中に凄さを感じたとお返事に書いてありました。人の気持ちは、早く届けると伝わるのです。伝わって、絶対いい本だからと、もう一回紹介してくださった。それがきっかけで、パネラーとして出たこともあるのです。

言葉ひとつでも、そのように人の心は変わります。たとえお礼状一つでも、なにかを感じてくれる。そのおかげで何百人かの人が九州や姫路に来てくれたこともありました。

藤原美津子: まさに人が運んでくれた縁ですね。

高橋恵様: 小さい時は家にお金があり、日本舞踊を習ったり、藤間流の踊りを習ったりした時期もありました。しかし、当時は「お嬢さん、お嬢さん」と言っていた人も、一度会社が失敗してしまうと悪口ばかり言うようになる。

私はそういった体験をしていたので、「人には優しくしなくてはならない。国籍とか学歴、貧富の差で人を差別してはいけない」と思うようになりました。

藤原美津子: いい時は、人の心ってわからない。けれど、悪くなった時に本性が露呈する。

高橋恵様: そうです。それに気づいたのは、全部人から。世の中のすべてのことは、人から気づかされるし、人付き合いを通して、人の心というものを学ばせてもらいました。

藤原美津子: 本日は貴重なお話をお聞かせいただき、誠にありがとうございました。ぜひ、多くの人に伝えていきたいと思います。


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